小児滲出性中耳炎アドバンスト

アドバンスト滲出性中耳炎

さらにくわしい耳の解剖

耳のしくみ、中耳炎の病態を理解する上で、あと2つ、重要な部分があります。

上鼓室(じょうこしつ)

中耳は骨で囲まれた空気の入った部屋ですが、サイコロのような単純な形ではなく、奥の方にくびれがあったりします。まず、中耳で一番大きな空間はちょうど鼓膜の奥に位置する鼓室です。ここは鼓膜の上縁付近で非常に狭くなっており、鼓室峡部と呼ばれています。鼓室峡部から上を上鼓室といいます。(図1) 鼓室峡部にはさらに、耳小骨のツチ骨、キヌタ骨も位置しており、またその骨を支える靭帯も入りこんでいますから、ただでさえ狭い鼓室峡部がさらに狭くなります。鼓室峡部で空気の通ることができるのは十分数えられるほどの針の穴何個かほどの狭さです。そのため中耳炎による粘膜の腫れや膿によって、この通り道が簡単に閉鎖されてしまうのです。これを上鼓室ブロックといい、いろいろな中耳炎の悪化につながります。

乳突洞(にゅうとつどう)、乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)

上鼓室の後ろ側にはこれまた狭い穴でつながった、乳突洞があります。ここは上鼓室と同じくらいの大きさの部屋ですが中にはなにもなく、伽藍堂になっています。この乳突洞を中心として、さらに空気の入った小さな部屋が連なっており、含気蜂巣と呼ばれます(乳突蜂巣ともいわれます)。図ではサボテンが生長したように描かれている部分です。蜂の巣のように小さな部屋に分かれているためにそのような名前が付いていますが、骨の中にびっしりと気泡がある状態ですから、スポンジをイメージしていただくといいと思います。(図2)

この図2は、実際、家庭用の洗剤をつけるスポンジを私が写真撮影したものですが、実際の乳突蜂巣と非常に良く似た感じが出ています。耳鼻科医の中には間違う人もいると思います。

<ここからが重要ポイント>

乳突洞までは生まれたての赤ちゃんにもありますが、含気蜂巣は生まれたてにはほとんどありません。先ほどの、サボテンの生長との言葉通り、乳児期から幼児期にかけて、乳突洞から徐々に含気蜂巣ができてきます。ですから乳突蜂巣が拡がっていく時期に中耳炎で乳突洞に空気が入らなくなると、乳突蜂巣がほとんどできないこともあります。(図3)

図の左、CT像で、白い部分は骨、黒い部分は空気です。上の図では乳突蜂巣の発育が非常に良く、黒い部分が多くなっていますが、下では乳突堂の周りにほとんど乳突蜂巣ができていません。乳幼児期に、乳突蜂巣の発育を阻害するほどの中耳炎をおこしていたことがうかがわれます。

滲出液がたまるメカニズム

鼓室の陰圧によって、粘膜から液体が滲み出てくる、という説は、ずいぶん古くから言われている古典的なものです。現在ではこの考えは否定的で、細菌感染によって産生されるある種の毒素の作用によって、滲出液がたまると考えられています。しかし、滲出性中耳炎の治療等を理解する上では、むしろ古典的な説のほうが好都合なので、こちらを優先してご紹介しました。

原因?誘因?危険因子

第5章では滲出性中耳炎の原因について述べています。しかし、原因とはいっても、どの程度原因になっているかというと難しい問題になります。例えば、アレルギー性鼻炎が原因の1つに挙げられていますが、いうまでもなく、アレルギー性鼻炎を持つ小児全員が滲出性中耳炎になっているわけではありません。また、アレルギーを抑える治療をしても、ほとんどの場合、滲出性中耳炎の改善にはつながりません。そうしたら、ほんとうにアレルギー性鼻炎は滲出性中耳炎の原因になっているのだろうかという疑問も出てきます。このように、本来疾患というのは、原因と結果というような、因果関係がはっきりしていることのほうがむしろ稀なのです。原因になりそうなものを羅列しているだけと受け取られても仕方ない面はあります。ほかに第9章でとりあげている危険因子、リスク・ファクターと、原因とはどう違うのかという点も疑問に思われる方がいるかもしれません。原因となりうるものは、少なくとも理論上、耳管機能の低下に結びつくものが上げられています。一方、危険因子は、多くの患者さんを集めた場合の、そのグループの統計上の特徴を抽出しているにすぎません。患者さんの中で、男の子のほうが、統計上明らかに多ければ、滲出性中耳炎の危険因子になる、というわけです。 もう1つ、原因とすべきか、危険因子の範疇なのか、私自身、その扱いに困っているのが、『鼻ススリ』です。鼻ススリは鼓室内を陰圧に導く動作として、取り上げられる場合がしばしばあります。しかし、私はこの点を強調しすぎると、お子様の生活上、新たな問題となるのではないかと心配しています。『鼻ススリをするな』という指導は、小さなお子様にとって、酷なように感じるからです。私は、鼻ススリをしないようにという説明は1度もしたことがありません。鼻ススリをしなくてすむように、しっかり鼻の症状を取ってあげましょう、とお話しています。

症状

「滲出性中耳炎は繰り返す、再発することが多い」と述べました。このことは古くからよくいわれてきていることですが、私はちょっと違うと思っています。滲出性中耳炎はその状態が変動することが大きな特徴なので、「滲出液がなくなっていたら治癒」、「また溜まったら再発」と表現するのは適切ではないと考えています。滲出性中耳炎では、日によって、滲出液が溜まっている場合もあれば、まったく鼓膜が正常のときもあるという、変動と考えるのが妥当ではないでしょうか。 実際、小児の経過観察をしていると、今週は鼓膜の状態がよかった、先週は悪かった、というようなことが日常茶飯事なので、そのことだけで一喜一憂するのはご両親の精神衛生上もいいこととは思えません。「今日は治っている」、「また、再発している」といわれるよりも、「今日は鼓膜の状態はいいですね」、「今日は滲出液が溜まった状態です」というほうが、状態を正しく表現していると考えています。

耳の状態として留意すべきこと

以下の2つの点は、治療方針を決める上でも、重要なこととされています。

1. 乳突蜂巣の発育

乳突蜂巣は、前述のように、乳児期から幼児期にかけて発育して大きくなる空洞です。この時期に中耳炎があれば、その発育は、当然、阻害されます。つまり、滲出性中耳炎が長引いた場合には、乳突蜂巣が小さいままになってしまう危険性が増すといえます。乳突蜂巣が小さいままだと、どの様な弊害があるのでしょうか。慢性中耳炎の患者さんでは、おおむね、乳突蜂巣の発育が悪く、すなわち、慢性中耳炎の危険因子の1つということはいえます。 まとめますと、 滲出性中耳炎が長引くと、乳突蜂巣の発育が悪くなる。 慢性中耳炎では、乳突蜂巣の発育の悪さが危険因子の1つになっている。 以上のことから、乳突蜂巣の発育に着目した治療方針が、わが国独自で、立てられています。

2. 上鼓室ポケット(retraction pocket)

滲出性中耳炎を繰り返す過程の中で、上鼓室ブロックという状態になることがあります。こうなると、上鼓室とそれに連なる乳突洞が、どこからも空気の供給のない、完全な閉鎖腔になり、次第に気圧が低下します。この閉鎖腔を構成する最も弱い部分は、鼓膜の上部だけであり、ほかは全て骨が壁になっています。つまり、一番弱い部分の鼓膜上部が陰圧の影響を最も受け、鼓膜のその部分だけがへこんでいきます(陥凹します)。これが、上鼓室ポケットと呼ばれ、進行すると、慢性中耳炎へとつながります。しかし、上鼓室ポケットは、通常、直ちに治療を要するものではなく、より深く進行しなければ、経過観察だけを続けることになります。

治療

急性中耳炎に対する治療

近年、小児急性中耳炎の治療には小児科医が積極的に取り組んでおられます。内服薬の処方など、ほとんどの場合は適切な治療が行われていますが、小児科の治療で、最も大きな問題点は経過観察という点だと私は考えています。急性中耳炎の診療は適切なものでも、ほとんどの小児科医はその後、鼓膜の状態をチェックしません。これは私の小児科医へのアンケート調査でもはっきりと結果に出ています。

鼻処置について

滲出性中耳炎の治療において、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の治療は、一般的には、重要なこととされています。経験的には、鼻の調子が悪くなると滲出性中耳炎が悪化しやすいということは医師のみならず、お母さん方も感じておられる方は多いので、全く関係ないということはないと思います。しかし、欧米の論文では、この点についてはあまり大きくは取り上げられておらず、はっきりと効果があると証明されているわけではありません。ただ、滲出性中耳炎に対しての効果がどうであれ、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の症状があるなら、それを取り除いてあげることは必要なことでしょう。 私がこの項で、『異議あり』ともっとも問題にしたい点は、滲出性中耳炎の治療には必要と称して、副鼻腔炎などの鼻症状が消失している場合でも、鼻処置が続けられるケースがあることです。どこで鼻処置を打ち切るか、判断が難しい点は確かにありますが、滲出性中耳炎の治療として、鼻処置がメインになるのはおかしいと私は思います。鼻の炎症やアレルギー症状が全くない場合には鼻・副鼻腔の処置を続けることは適切とは考えにくいでしょう。

アデノイド切除術

滲出性中耳炎が外来治療だけでは治らないために手術治療となる場合、アデノイド切除術だけを単独で行うことがあるようです。私はこの方法には明確に反対です。滲出性中耳炎の治療のために、せっかく全身麻酔で手術を行うわけですから、そのチャンスに鼓膜チューブ留置術を行わないことは、絶好の機会をみすみす逃していると私は捉えています。鼓膜に穴を開けることを極度に嫌うのは、素人の感情論にすぎません(大変、失礼ながら)。その意見に迎合して、アデノイド手術だけを単独で行うのは、私に言わせれば、むしろ裏切り行為です。手術を含めて、滲出性中耳炎の治療は全て、そう高い治癒率が望めるものではありません。治癒を期待するというよりも、その時点での聴力低下をなくしてあげるという意義が大きい治療法なのです。ですから、全身麻酔をして手術をする以上は、確実に一定期間、聴力改善が得られる方法が取られるべきであると考えています。私の場合は、滲出性中耳炎の治療として、アデノイド切除術だけを単独で行うことはありません。鼓膜チューブ留置術が全身麻酔で必要な方でアデノイドが大きい場合に、その切除術を併せて行うようにしています。

耳管通気

耳管通気は欧米では治療法として行われている一般的な方法ではありません。自己通気といって、風船を鼻でふくらませる装置を自宅で使うという治療法はあり、我が国でも行っているところはあります。しかし、欧米のごく一部で行われている治療法で、有効性が実証されているとはいえません。

私は、小児滲出性中耳炎に対しては、治療上の意味はないものと考えています。

耳管通気は滲出性中耳炎に対する最も一般的な治療の1つですが、どの程度治療効果があがるものなのか正確に判断するのは難しいといえます。各耳鼻科医院でおそらく最も一般的に行われているであろう耳管通気の効果に対して私がこれほど懐疑的なのは、耳管通気が治療法の1つになりうるという理論的裏付けが乏しいという点がまず第1に挙げられます。

耳管通気は一瞬に耳管を経て鼓室に空気を送り込む処置です。その瞬間、確かに鼓室内圧は正常化され鼓室の陰圧は解除されます。問題はその鼓室内圧がどの程度の時間保たれているかという点です。個人差や状態による違いはあるとしても鼓室内圧が再び陰圧となってしまうのにおそらく数分から数時間しかかからないのではないかと思われます。実際、私は口蓋裂児に合併した滲出性中耳炎の通気を行った際にものの数分もかからないうちに鼓膜がみるみる内陥するのを経験しました。例えば耳管通気をしてから再び陰圧化するまでの時間を1時間と想定しましょう。この場合には1時間に1回耳管通気をすれば鼓室は常に正常圧となり、悪循環を断ち切る有力な方法であるといえるでしょう。しかし、これはまさに机上の空論であり、不可能です。それでは1日1回耳管通気をするものとすると、1日のうち、鼓室内圧は23時間は陰圧で1時間は正常圧ということになります。2日に1回ですと、47時間が陰圧で1時間だけ正常圧です。このことが「理論的裏付けが乏しい」と私が考える根拠です。

しかし、一方で、鼓室に空気を送り込むことによって鼓室内にガス交換が可能な空間を作ることに意義がある、という意見があり、これがおそらく最も説得力のある理論的根拠になっているものと考えられます。本当にそうでしょうか。しかし、これはまったくの机上の空論にすぎません。なぜ『机上の空論』と言い切れるのか。それは、実際の臨床上の治療効果の証拠がないからです。この『通気療法』は、欧米ではほとんど治療法として用いられていないので、確かに『治療効果がない』という証拠もありません。しかし、欧米の膨大な臨床研究で、鼓膜切開には滲出性中耳炎に対する治療効果がないことが確定しているといっても過言ではありません。鼓膜切開に効果がなくて、通気に効果があるとは、これも机上ながら、到底考えられません。

自己通気について

自宅で何度でもできる点が最大の利点ですが、わが国では、あまり普及していません。これはわが国の耳鼻科医が、これで本当に通気ができるのか、疑わしく思っているのかもしれません。また、同時に鼻処置なども必要という考えの下、通院を促しているためかもしれません。

自己通気に関しては、欧米で数編の臨床論文があり、効果があるとの結果が得られています。しかし、この論文を詳細に分析すると、そのお粗末さが際立っており、症例数の少なさや観察期間の短さなど、到底、この治療の有効性を証明しているとはいえません。これらの論文を信用の置ける論文と考えるのは、よほど臨床研究の信頼性についての知識が乏しいといわざるを得ません。さらに、これらの自己通気の論文で効果があることを根拠に、ほかの耳管通気も有効であろうと主張することは、まったくナンセンスとしか言いようがありません。

私は自己通気の有効性については否定しているわけではなく、有効性を信じられるようなデータがないということを言っているのです。

鼓膜マッサージ

これは通常の耳鼻咽喉科の教科書に記載がなく、また、この治療法に関する論文もほとんどありません。1998年1月に私の初期のホームページを御覧いただいた耳鼻科ドクターより鼓膜マッサージに関する1編の論文があることを教えていただき、早速通読しました。その内容を詳しく引用することは著作権の問題上出来ませんが、滲出性中耳炎の悪循環を断ち切る効果があまりある程の客観的なデータは得られていない、といわざるを得ません。言葉は少し悪いですが、「気休め」程度のものではないでしょうか。

抗生物質の内服

まず、薬の治療法としては、抗生物質は種類の如何を問わず、1か月程度は効果があるとされています。これは薬を飲み始めて1か月後を比較すると、薬を飲んでいない人よりはやや改善率がよいという程度の効果です。経過が長引く滲出性中耳炎で果たしてどれほどの意味のある効果なのか、疑問が持たれます。

また、当初は1か月程度の長期服用で効果的とされてきましたが、最近では2週間以上服用しても改善率に差がないとされています。つまり、抗生物質の内服治療は2週間以内にとどめるべきということになります。

ところが、我が国では2か月程度をめどにある種の抗生物質の長期服用を行う治療がある研究者を中心として推奨されており、欧米との際だった治療法の違いが見られます。これを単なる治療方針の違いとして見過ごしていいものでしょうか。

抗生物質にはその服用による問題点は2つあります。1つは副作用の問題で、薬の種類によって肝臓や腎臓、胃腸や皮膚などに障害がでることがあり得ます。もう1つは耐性菌の問題です。抗生物質を長期使用することによって、身体の中の細菌が薬に対して抵抗力をつけ、薬が効きにくくなるという弊害が生じる可能性が高まります。つまり、抗生物質の長期服用はその効果という利点が副作用と耐性菌出現の危険性を大きく上回る場合に行われるべき治療です。

我が国での2か月という長期の抗生物質内服治療はそのことが十分に検証されているかどうかが私には疑問なのです。服薬期間2ヶ月をめどにした長期の抗生物質の治療は、データの採り方によっては有効という見方をすることは可能でしょう。しかし、この項の冒頭でも書きましたように、その効果が短期間にとどまる のであれば、見直す必要が出てくるかも知れません。

粘液融解剤

粘液融解剤はごく弱いながらも効果が認められるとの研究結果が欧米でも出ています。この薬が抗生物質と際だって異なる点は、副作用などの問題が生じる危険性が格段に低いことです。ですから、「まあ、一応、飲んでおいてもらってもよい」という程度の判断で使用しても、そう問題はありません。

鼓膜切開

鼓膜切開はかつて欧米でも滲出性中耳炎の小児に盛んに行われていたので、その臨床データは豊富にあります。その結果では、鼓膜切開術は滲出性中耳炎に対して、効果がないと結論づけられています。これは膨大なデータを元にした、きわめて信頼性の高い結論です。

鼓膜切開は、私はほとんど行いません。私が滲出性中耳炎児に鼓膜切開を行うのは、患児本人にひじょうに不快感が強い場合や聴力低下という病気の意識が母親にまったくなく、その点に気づいていただいて治療に取り組むきっかけにする場合などです。

鼓膜切開を行う医師の間では、鼓膜切開の回数は、通常、数回程度にとどめておくというのが一般的な考え方ですが、中には何度でも鼓膜切開を繰り返して良いと考える医師もいます。小児の恐怖心が強い場合には2回以上すべきでない場合もあります。長年の経験から鼓膜切開を行っている医師の治療方針を覆すことは容易ではありません。自ら信じて行っている行為を頭から否定されて反発を感じない人は、医師に限らず、いないでしょう。

しかし、ここでは、鼓膜切開後、2,3日後の効果を比べているのではないのです。滲出性中耳炎の場合、少なくとも数ヶ月後に継続的な効果がないと有意義な治療法とはなりにくいのです。数ヶ月後の効果をみた場合、臨床疫学上、推計学的には、「鼓膜切開をして治った滲出性中耳炎は、鼓膜切開をしなくても治った」といわざるを得ないのです。この点、医師にも患者様にもお含み置きいただきたいと思います。

レーザーによる鼓膜切開

最近、この治療法と鼓膜チューブ留置術との治療効果の比較論文が発表されました。一言で結論を言うと、あまり有意義な治療法とはいえないことが結論付けられています。 実は、このレーザーによる鼓膜切開、わが国で医療機器としての認可を受ける以前に、そのレーザー機器のメーカーから鼓膜切開をこれで行うことの意味について、打診されました。私は治療効果の面で従来の治療法に勝るとは考えにくいというコメントをいたしました。最新の研究成果でも私の予測どおりの結果なのですが、新しい物好きのわが国の勤務医には、そんな研究成果はお構いなしでしょう。おそらく今後、レーザーによる鼓膜切開は、新しい治療法として、ありがたがられ、レーザーという素人受けする言葉でもあるので、どんどん普及していくことでしょう。さらにわが国での研究成果が次々と発表され、従来の鼓膜切開との比較で、切開後、1、2ヶ月程度は治療効果の差がみられるでしょうから、それくらいの観察期間での治療成績が多く発表されるに違いありません。私の予測では、おそらく3ヶ月後の治癒率に差はみられないと思います。

鼓室換気チューブ留置術
チューブの留置期間

チューブはその材質や形など、さまざまなものが開発されています。そのチューブの特徴としては、大きく分けて、短期型チューブと長期型チューブがあります。つまり、比較的短期間で抜け落ちてしまうタイプのチューブと長期間、鼓膜にとどまっているタイプのチューブがあるのです。それぞれ長所、短所があり、短期型は平均で6ヶ月程度と比較的早く抜け落ちてしまいます。しかし、抜けた跡に鼓膜に穴が残ってしまう危険性は1%未満程度とごく少なくなっています。一方、長期型は1年以上鼓膜にとどまっている場合が多く、難治性の場合には何度も入れ替える必要がないという利点があります。しかし、欠点としては、やはり鼓膜の穴が残る率が高く、約7%といわれています。

その2種類をどの様に使い分けるのか、残念ながら、統一指針はありません。

私の場合、年齢や病状にかかわらず、初めてのチューブ留置術の人には短期型チューブを使用します。2度目の場合には、ご両親に長所、短所をご説明し、選択していただきます。3度目は、拒否された場合を除き、長期型のチューブを使用します。

チューブ留置術は乳突蜂巣の発育を促すか?

チューブ留置術によって、乳突蜂巣の発育が促されることはほぼ実証されています。ここで私が問題と感じる点は、わが国では、乳突蜂巣の発育の程度が治療方針を決める重要なファクターになりすぎているという点です。

以上の2つは事実ですが、これを結び付けて、だから早期にチューブ留置術が必要とするのは、横断研究を重視しすぎた三段論法にすぎないと私は考えます。もっと、個人個人の長期経過観察で、チューブ留置術が慢性中耳炎の罹患率を低下させるかどうかを見ていくことから始めるべきと思われます。

チューブ留置中のプールはどうするか?

この点についても、わが国の研究成果は皆無です。実は『チュービング』という和製英語の略称を考案されたS先生がこの点をテーマに論文を発表されていますが、十分な根拠に基づく結論とはいえません。やはり、ここでも海外論文にその根拠を求めることになります。この点、海外では膨大なデータがあります。これによると、チューブ留置小児は、耳栓などの予防処置なしに自由にプールに入っても、プールを完全に禁止しても、中耳炎の罹患率に差はなかったとされています。つまり、チューブ留置小児に水泳を禁止する理由はまったくないということが結論付けられます。以上の説明を私は実際に行っていますが、いうまでもなく、中耳炎がおこらないということを保障しているわけではなく、自己責任でプールに入ってもらっても結構ですということを強調しています。もちろん、現在通院中の耳鼻科医師との関係を損ねない範囲で、相談してください。

なお、もう1つ、ご参考までに、チューブから中耳内に水が侵入するためにはかなりの圧を要するので、6フィート(約180cm)以上潜らなければ問題ないという指摘があることもお知らせしておきます。

治療方針

治療方針を決める上でもう1つ、重要なファクターとみなされているのは乳突蜂巣の含気化の問題です。この点は、何度も触れている通り、私には、わが国特有の基礎的事項に偏重した末の治療方針という感が拭えません。もっと実際の症状や臨床的アウトカムにのっとった治療方針を模索する姿勢を持っていただきたいものです。一言言うと、乳突蜂巣の発育を促すという方針においては実際の患者の利益が証明されていないということを言いたいのです。

危険因子、生活指導

アレルギーの関与について

しかし、この疫学調査上の事実は、残念ながら、治療には結びついていません。つまり、アレルギーを抑える抗ヒスタミン剤やステロイドは、滲出性中耳炎に対して、有効性が証明されていないのです。もっというと、無効であることがほぼ結論付けられています。 アレルギー性鼻炎を持つ人が滲出性中耳炎になりやすいことは、疫学調査上、間違いありませんが、アレルギーに対する治療は滲出性中耳炎には無効、この両者は、少し矛盾しているようにも感じられますが、紛れもない事実なのです。つまり、横断的な調査だけに基づいて、治療方針を決めることの危険性をこの事実は教えてくれています。

保育園の通園について

中耳炎を繰り返したり、滲出性中耳炎が難治な場合、保育園を槍玉に、通園をしないことを強く勧められる場合があるようです。しかし、私はこの意見には現時点で全く同意できません。今、そのような結論を出すのは早計、時期尚早と考えています。

まず最初に、前項のアレルギーと同様になりますが、保育園がリスク・ファクターになるというのは、滲出性中耳炎になりやすい小児や難治性の小児を集めると、保育園通園児が多かったという事実にすぎません。つまり、保育園の通園をやめることがまぎれもなく滲出性中耳炎の治癒につながるかどうかは誰も知らないのです。世界中で、このような臨床研究はまったくされておらず、本当に通園を中止して効果があるのかどうかという信頼できるデータはまったくないのです。

そうなると、前項の「アレルギーの薬がまったく効果がない」のと同様、通園の中止がまったく効果がないという可能性も否定できません。つまり、専門用語になりますが、介入試験を経ていない段階で、このような指導をするのは早計ということができます。

疑問1

保育園をやめたら治るのか、どれくらいの確率で治るのか。  次に、中耳炎の予防効果と保育園の利点との比較です。保育園は、社会性を身につけたり、親以外の大人と接したり、それこそ抵抗力をつけたりと、お子様の成長にとって、有意義な点が多くあります。それを犠牲にするほど絶大な効果があるのでしょうか。

疑問2

中耳炎予防のため保育園をやめることに、保育園の利点を上回るほどの価値があるか。

疑問3

保育園をやめると、家族(主として母親)のQOLに多大な 影響を及ぼすが、それほどの価値があるのか。

以上、保育園の通園中断による効果の実証性のなさ、ほかの保育園の効能の2点をかんがみた場合、医師は安易に保育園の通園中断を勧告できるのかどうかをもっと真摯に検討していただきたいと私は考えています。

長期経過

治療効果の見極め

滲出性中耳炎の状態が変動しているということは、治療効果の見極めがきわめて難しいことを意味しています。例えば、2ヶ月間、通気療法で通院し、一旦滲出液が消失したとします。さて、治療効果があったのでしょうか。治療で消失したのか、自然に変動として消失したのか、誰にも判断できません。この点を多くの耳鼻科医は誤解しており、通気によって良くなったと思い込んでしまうことが良くあります。

結局、滲出性中耳炎の場合、1つの治療法に効果があるかどうかを見極めるためには、なるべくたくさんの患者さんで、その効果を比べてみるしかないのです。例えば、100人ずつの患者さんで、一方は毎日通気、他方の100人はまったく何もしないようにし、その後の状態、例えば、2ヶ月後の状態を比べるのです。そして、通気をしたグループの滲出液消失率が60%であったとします。何もしないグループ100人の液消失率が60%なら、通気療法の効果がないことになります。簡単に言うとこのようなデータが臨床的に信頼できる根拠となるのです。

暗中模索の滲出性中耳炎診療 その他の問題点

お母さんのための滲出性中耳炎教室リターンズ

小児滲出性中耳炎アドバンスト

ここからはじまる小児滲出性中耳炎の新しい診療

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