ここからはじまる小児滲出性中耳炎の新しい診療

はじめに

当院では2005年から、新しい考えを取り入れた独自の滲出性中耳炎診療を行っています。 滲出性中耳炎はその状態が日々,変化することが特徴なので,受診時の断片的なデータだけでは状態を把握できたことにはなりません.そのためご家庭での観察で時間的な変化を捉えることがとても大切なのです.そのためのツールとして当院が独自に開発したのがO.M.I.シートです。(写真)O.M.I.シートでは、鼓膜の状態や検査結果を数値化して、誰の目にもわかりやすい形で記録していくだけでなく,ご家庭でのお子さまの状態や生活上での不都合度なども重要項目として位置づけています。また,悪化したり,長引きやすい要因や環境にも配慮して治療方針を決めていきます。ご家族と当院の医師,看護師が一緒に経過観察を行い,明確な治療方針のもと,診療を進めるための記録用紙とご理解ください。

O.M.I.シートの利点

・滲出性中耳炎に関連する症状や弊害、悪化させる要因がよく理解できます。
・ご家族にも経過観察に加わっていただきますので、積極性が出ます。
・数値データで経過を追えるので,すぐに変化がわかります。
・通院や治療を納得して受けることができます。

O.M.I.シートの内容

記録するデータは大きく3つに分かれています。

  1. 基本スコア (看護師が記載;経過観察開始時1回のみ)
  2. 生活スコア  (ご家族が記入;月4回)
  3. 診療スコア (診察(月2回)と検査結果(月1回))

各スコアの解説

1.基本スコア(素因、生活環境、病歴)

主として、お母さんのための滲出性中耳炎教室リターンズの「第9章 なりやすい子、なおりにくい子」の要因をまとめたものです。治りにくい要因をたくさん持っているほうが手術に至る可能性は高くなります。基本スコアはお子様自身の素因・体質と生活環境、今までの中耳炎の病歴、の3つに分けて記載します。生活環境については、OMIシートの使用開始後に改善できた項目はスコアを半分に減らして再計算します。

「お子さま自身の素因,体質」の項目
生下時、未熟児(2300g以下) (なし;0 あり;3)
男児 (なし;0 あり;4)
アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー等 (なし;0 1つ;2 2つ以上;4)
口蓋裂、頭蓋顔面奇形、ダウン症候群 (なし;0 あり;30)
非母乳栄養 (なし;0 あり;2)
「生活環境,ご家族の状況」の項目
保育園、幼稚園に通園中 (なし;0 あり;12)
兄弟(4学年差までの)がいる (なし;0 あり;3)
家族の喫煙 (なし;0 あり;2)
親が中耳炎の反復や難治化を経験 (なし;0 あり;5)
「今までの中耳炎の病歴」
1歳までの中耳炎の既往 (なし;0 あり;6)
5回以上の急性中耳炎の既往(両耳の合計) (なし;0 あり;10)
3カ月以上前に滲出性中耳炎と診断 (なし;0 あり;6)
2.生活スコア

ご家庭で毎週1回、観察者を決めて(ほとんどの場合はお母さん)、記載していただきます。日ごろのお子様の状態を記録する大変重要なものです。このデータはもちろん、今後の治療方針に生かされるだけでなく、どのようなしょうじょうがしんしゅつせい中耳炎と関連があるのかをご理解いただき、ご家族にお子様の状態を常に意識していただく効果もあります。

「お子さま自身からの自発的な訴え」
聞こえにくい,耳が気持ち悪い,ときどき耳を痛いという (なし;0 1つ以上あり;3)
「難聴からくる症状」
返事をしない、聞き返しが多い、テレビの音を大きくする
(テレビに近づく)
(なし;0 1つ以上あり;2)
「耳閉感(耳がつまるような、不快感)」
耳をよく触る、耳をひっぱる・こする・たたく,耳を気にしてそう (なし;0 1つ以上あり;2)
「平衡感覚の症状」
ぎこちない(不器用)、よく転ぶ、動作が不自然 (なし;0 1つ以上あり;2)
「精神・心理的影響」
会話が少ない、表情が乏しい、元気がない、怒りっぽい、夜中に目がさめる (なし;0 1つ以上あり;4)
「言語・学習障害」
言葉の遅れ、発音が不明瞭・間違って発音する、授業を普通に受けられない (なし;0 1つ以上あり;5)

生活スコアはご家庭で記録していただくものなので、データの信頼性を高めるため、以下の注意点をご説明し、常にデータの正確性を意識していただくように配慮しています。

生活スコア記載上の注意点
  1. お子さまを日頃の生活上で観察したデータは非常に重要です。希望や感情を交えることなく,できるだけ正確に記載して下さい。
  2. 記載者(多くはお母さん)自身でご判断して下さい。決してお子さま本人に尋ねないようにして下さい。
  3. 毎日接していると,微妙な変化に気づかない場合や悪い状態になれ てしまう危険があります.他の兄弟やテレビの音量の目盛りなど, 基準になるものを工夫して下さい。
  4. データの記載が1回抜けてしまった場合には前後の総点数の平均値 をそのデータとします。(2回以上連続して記載のない場合はこの経 過観察シートの使用を中止する場合があります。)
3.診療スコア

月2回、当院を受診いただき、その際に医師が記録する項目です。鼓膜の状態と検査所見からできています。鼓膜所見については、ほかの医療機関や複数の医師が使用してもできるだけスコアのブレが出ないように、評価の違いが出にくい点数体系にしています。

1.鼓膜所見(月2回)
鼓膜陥凹度 正常 0
明らかな陥凹 1
上部ポケット形成 3
奥の壁との接触 5
滲出液 なし 0
疑わしい(混濁) 1
あり(淡黄色等) 2
あり(にかわ状) 8
鼓膜の厚さ 正常 0
薄い 4
2.検査(月1回)
聴力検査(6分法) 20 dB未満 0
35 dB未満 3
35 dB以上 10
ティンパノメトリー 正常 0
C型 3
B型 8

OMIシートの総合判定

  1. 3カ月の総合点(A)が120点を超えた場合,手術(鼓膜換気 チューブ留置術)を考慮すべき状態といえます。
  2. 3カ月の総合点(A)が200点を超えた場合,手術(鼓膜換気 チューブ留置術)を強く勧告すべき状態といえます。
  3. 3カ月以上の経過観察で,スコアの変化グラフが平坦または 悪化している場合,手術を勧告すべき状態といえます。

上記のように、あらかじめ、判断基準を明確にし、医師とご家族が協力してお子様を見守っていく、それがOMIシートの基本コンセプトなのです。

OMIシートにご興味をお持ちの耳鼻咽喉科の先生方へ

当院で使用しているOMIシートの実物、1部を実費でお譲りいたします。ご希望の場合は、切手(120円分)を同封の上、OMIシート希望の旨と、郵送先住所をご記入の上、当院までお送りください。

なお、上記の手続きでOMIシート、1部を郵送させていただきますが、複数のOMIシートを最初からご希望の場合には、希望部数を明記の上、部数×20円分の切手を同封ください。

◆◆◆◆◆ お知らせ ◆◆◆◆◆

当院では、引き続き、ご家族参加型の滲出性中耳炎診療を推進してまいりたいと考えています。今後、新しく作成したいと考えている項目は現時点で以下の2つです。

  1. チューブ留置中のプールをどうするか。
  2. 難治性、反復性中耳炎の場合、保育園の通園をどうするか。

(1)については、実は本編でも記載していますが、ほぼ結論は出ています。プールを禁止しても、しなくても、中耳炎の罹患率に差がないということです。しかし、わが国では、いまだ、チューブ留置中のプールを禁止している医師が少なくありません。プールに入れてやりたい、けれども医師は禁止している、そんな状況において、医師をも説得できる選択肢のモデルタイプが必要なのではないか、そんな風に考えています。

(2)は社会的に影響のある重要な問題です。ご家族にとっては非常に深刻な問題にもなってくるでしょう。本編(アドバンスト)でも述べましたが、保育園への通園をやめて、滲出性中耳炎や反復性中耳炎がどの程度よくなるのかというデータは存在しません。世界中でこのような検討はされていません。

とはいっても、現実には、「保育園をどうするか」という命題については結論を出していかないと前に進みません。この問題は、お子様に内服薬を使うかどうかというような事象とは全く次元が違ってきます。ほかのご家族への影響が大きすぎるからです。ですから、ほかの生活上のこともじっくりと考えた上での判断がどうしても必要です。

このような問題点に関しては、私は、臨床決断分析という手法が役に立つと考えています。この方法は、あらゆる選択肢を洗い出した上で、それぞれの選択肢の予測値と期待値を交え、数値でどちらのほうが有利かを判断していくものです。ゲーム理論を医学に応用した考え方なのです。ただ、残念なことに私は臨床決断分析をほんの少し勉強しただけで、この手法の運用には知識も経験も不足しています。どなたか、ゲーム理論にくわしいかたがおられましたら、私と一緒に、保育園通園の判断樹を作成していただけませんでしょうか。ご協力、よろしくお願いいたします。メールにてご連絡ください。

お母さんのための滲出性中耳炎教室リターンズ

小児滲出性中耳炎アドバンスト

ここからはじまる小児滲出性中耳炎の新しい診療

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