お母さんのための滲出性中耳炎教室リターンズ

第8章 治療

まず、治療は原因に対する治療と滲出性中耳炎そのものに対する治療があり、そのときの状態によって両者を組み合わせて行うのが一般的です。各治療法をまず詳しく解説し、最後に実際の治療の流れについても説明いたします。

【原因に対する治療】

急性中耳炎の治療  鼻の病気に対する治療  アデノイドの手術

【炎症に対する治療】

耳管通気 鼓膜マッサージ 薬剤治療 鼓膜切開 鼓膜チューブ留置術

【治療法選択の流れ】

一般的な治療の流れ

原因に対する治療

急性中耳炎の治療

急性中耳炎は第5章でも述べましたように、滲出性中耳炎の最も大きな原因といえます。乳幼児ではほとんどの場合、最初に起こる滲出性中耳炎は、急性中耳炎後に引き続き起こるタイプのものといっても過言ではありません。ただし、2回目以降は急性中耳炎を経ずに滲出性中耳炎が発症することも多く、発見が難しくなります。

ここで一番ご注意いただきたいことは、急性中耳炎の痛みや発熱といった症状は多くの場合数日程度でなくなりますが、その後はかなり高い確率で滲出性中耳炎に移行します。ですから、お子様が急性中耳炎にかかった場合には、症状がなくなった時点で通院をやめるのではなく、せめて2、3週間くらいは鼓膜の状態のチェックのために通院を続けていただきたいのです。

また、幼小児の急性中耳炎の治療では次項で述べる鼻の治療も重要になってきます。急性中耳炎が治癒しても鼻疾患を放置していると急性中耳炎の反復の原因になるので、鼻症状が落ちつくまでは通院が必要です。

鼻の病気に対する治療

特に幼小児の場合はアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が滲出性中耳炎の要因になっていることが多く、その治療が大切になります。

アレルギー性鼻炎があると風邪などをきっかけにして副鼻腔炎を併発することもよくあり、鼻閉や膿性鼻漏などの症状が一層きつくなります。アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎とも症状が一旦落ちついても繰り返すことが多いのですが、大人の場合と違って小児では成長の過程で徐々に治ることも多いですから、あきらめずに根気よく治療しましょう。

アレルギー性鼻炎の治療

薬による治療が主となります。薬剤として主要なものは、アレルギー反応によって起こる症状を抑える抗ヒスタミン剤、抗ヒスタミン剤以外の抗アレルギー薬、鼻への噴霧剤、漢方薬などがあります。ネブライザー(吸入薬)は施設によって多少薬剤に違いがあるのですが、一般的にはステロイド(副腎皮質ホルモン)などを入れます。いずれも少量なので全身的な副作用の危険性はあまりありません。

以上の薬を症状に応じて使いわけるのですが、いずれも根本的な治療ではなく、幼小児といえども長期にわたって内服薬を続けることになる場合があります。特に最近では、幼小児のアレルギー性鼻炎は重症化しており、その傾向は強くなっています。

副鼻腔炎の治療

副鼻腔炎の治療も表面上はアレルギー性鼻炎の治療と変わりませんが、使う薬の内容が異なります。 消炎剤、粘液融解剤などが一般的に処方され、炎症が活発なときには抗生物質を使用することもあります。通院回数はやはり、副鼻腔炎の程度によって大きく左右されるのですが、要は膿汁が溜まらなければいいのですから、膿汁を頻繁に排泄することには充分な意味があり、処置の回数を増やすことはアレルギー性鼻炎の場合よりもずっと意味深いことといえます。

副鼻腔炎が外来通院だけで治らないときは手術が必要になることもありますが、その時期は16〜17歳以降の骨格ができあがったときに行うのが一般的です。もちろん、大部分は小学生の後半には治るので、手術になることはそう多くはありません。小児でも希に鼻内に炎症性のポリープ(鼻茸-はなたけ-)ができることがあり、それが大きくて鼻閉がきつい場合には手術せざるを得ない場合があります。

アデノイドの手術

アデノイドが大きければ耳管開口部を狭くし、副鼻腔炎の長期化にも影響するため、切除術の対象となります。アデノイドは7歳以降には自然に縮小していくことが一応期待できるのですが、滲出性中耳炎が治りにくい場合には原因の1つを取り除く意味で治療法の選択肢の1つとなるのです。

現時点では、滲出性中耳炎の治療としてアデノイド切除術は一定範囲の治療効果が認められている数少ない治療法の1つといえます。1〜2年以内の聴力改善が期待できるというもので、限定的な効果ではありますが、このような効果でもはっきりと証明されている治療法は滲出性中耳炎の治療としてほとんどないのが実情です。

手術方法

かつては局所麻酔でされていましたが、現在では全身麻酔でするのが一般的です。アデノイドを切除するための特殊な切除刀を口から挿入し、アデノイドをそぎ落とす手術です。(図1、2)

最近では、デブリッダーといって、アデノイドを細かく切除しながら吸い取るという手術機器が用いられることもあります。(図3) 術創部(切除後のキズのこと)からの出血は通常、わずかで自然にとまりますが、ガーゼをいれて止血する場合もあります。手術時間は10〜20分くらいです。

危険性

やはり術後出血が第1にあげられますが、通常はさほど心配ありません。その他には、鼻咽腔が広くなるために開鼻声(鼻に抜けるような声)や嚥下時の鼻腔への漏れ、中耳炎、創部の炎症などがあげられますが、これらは起こることも少なく、たとえ起こっても一時的なこととして切り抜けられることがほとんどです。

滲出性中耳炎に対する治療

滲出性中耳炎の本質が耳管機能低下であることは繰り返し述べました。(第4章)

その原因にはアデノイドや副鼻腔炎などが多く、それらに対する治療は前述しました。原因に対する治療を述べたわけですが、原因を取り除いただけで治ってしまうとは限らず、その場合には滲出性中耳炎そのものに対する治療が必要になります。

しかし、耳管機能低下そのものを改善させる治療法は厳密な意味では現代医学にはありません。具体的にいうと、滲出性中耳炎に対する治療とは鼓室内圧を強制的に正常化したり、鼓室に貯留した滲出液を取り除いたりして、耳管機能がよくなる助けをしているだけなのです。色々ある治療法も結局は第4章10の図3で示した悪循環を断ち切る方法の1つと考えると理解しやすいでしょう。

まず、色々な処置、手術を列挙してその治療上の意義について述べます。次に滲出性中耳炎の程度や治療経過によって段階を追ってどの治療法を選択すべきかについて説明します。

耳管通気(じかんつうき)

鼻咽腔の耳管開口部より空気を送り込んで鼓室内の陰圧状態を改善し、鼓膜の内外の圧差をなくす処置です。次の3つの方法があります。

耳管カテーテル法;耳管カテーテルという先端の曲がった金属製の管状の機器を用います。これを鼻から入れて直接、耳管に空気を送り込みます。(図4)

ポリツェル通気;ポリツェル球を用いる方法です。カテーテル通気は多少痛みを伴うため、小児では主としてポリツェル通気がされます。「がっこう」とか「ハック」などと小児に言ってもらうと、軟口蓋が挙上し鼻咽腔と中咽頭の間を閉鎖します。つまり、鼻腔と鼻咽腔が1つの閉鎖腔となるのですが、その瞬間を狙って鼻の穴から空気を強く送り込むと、鼻腔・鼻咽腔の圧が上昇し、それが耳管を開放させ、鼓室に空気が入るというわけです。(図5)

医師は通気音を聞くことによって鼓室に空気が入ったかどうかを確認します。 自己通気;鼻で風船を膨らませるという作業を通して、自分で鼻咽腔圧を上昇させ、耳管通気を行うものです。(図6)

鼓膜マッサージ

耳の穴に装具を当て、そこから一定のリズムで鼓膜に送気されます。これによって鼓膜を刺激し、治癒を促す効果を期待した治療法です。

薬による治療

薬としては、まず第一に、抗生物質が挙げられます。ペニシリン系、セフェム系をはじめとして、種々の抗生物質が使われます。使用期間は、せいぜい2〜4週間程度でしょう。わが国では、マクロライド系という抗生物質の少量長期療法という治療法が普及しています。これは常用量よりも少ない薬の量で、2ヶ月程度、服用を続けるという治療法です。他には鼻の治療と同様、粘稠な滲出液の排出を促すための粘液融解剤などが使われることがあります。

鼓膜切開

鼓膜を切開して鼓室内圧を正常化するとともに滲出液を吸引除去するものです。鼓膜切開によって外耳道から鼓室内に空気が流入するため、一瞬にして鼓膜内外の気圧差をなくすことができます。さらに吸引できずに残った滲出液の排泄を促す作用もあります。缶ジュースに穴を開けて飲むときのことを考えて下さい。1つの穴よりも2つ穴を開ける方がジュースは飲みやすくなります。(図8)

それと同じで、鼓膜に穴を開けることによって耳管から滲出液が排泄されやすくなるのです。局所麻酔をした鼓膜に1〜2mm程度の穴を開けるのですが、この程度の小さい穴ですと、たいてい1〜5日間くらいで閉じてしまいます。(図9)

穴が閉じずに残ってしまう可能性も0とはいえませんが、幼小児では極めて稀です。1回の鼓膜切開で治らない場合は何度か繰り返して鼓膜切開を行うことがあります。鼓膜切開の回数は、医師の治療方針の差が大きく、ほぼまったく行わない医師から、無制限に何十回と繰り返す医師もいます。

最近では鼓膜切開の応用として、レーザーによる鼓膜切開が普及しはじめています。従来のメスによる切開に比べて、鼓膜の穴が閉じにくく、2〜3週間と比較的長期間保たれることが特徴です。

鼓膜チューブ留置術
[意義、概要]

基本的な意義は鼓膜切開と同様、鼓室内圧の正常化と滲出液の排出促進です。鼓膜切開ではすぐに穴が閉じてしまうため、その効果がせいぜい5〜6日しかなく、その効果をより長期間保つために考案された治療法です。

つまり、鼓膜に留置したチューブが鼓膜の穴の自然閉鎖を阻止するために、鼓膜の穴がより長く開いていることになるのです。チューブ留置術の2〜3年後の長期的な効果という面では、聴力でも治癒率においても、それほど劇的な効果が見られる治療法ではなく、その効果はかなり限定的なものといわざるを得ません。しかし、現在行われている滲出性中耳炎の治療法の中では最も有効性の高いものであることは間違いありません。また、2、3年後の治癒率はあまり高くないとはいえ、チューブ留置術の本来の意義は、早期に聴力低下を脱して、聴力の良い期間をなるべく長くすることといえます。もう1つ、乳突蜂巣の発育を促すという意義を見出すこともできます。

鼓膜切開がほんの一瞬の処置でできるのに対し、チューブ留置は最低でも数分かかり、多少の痛みを伴うこともあるため、5〜6歳以下の幼小児では残念ながら外来でできることは少なく、入院の上、全身麻酔でおこなうことが多くなります。

[手術の実際]

全身麻酔(または局所麻酔)下に、鼓膜を切開し、鼓室内の滲出液を吸引した後、チューブを挿入します。(図10、11)

[チューブの留置期間]

チューブの留置期間は長いほど治療効果が上がる、すなわち治癒率が高まります。例えば、留置期間が3ヶ月以下の場合には滲出性中耳炎の再発率は30%以上あり、1年以上留置されていた人々では再発率は15%以下になります。

しかし、残念ながら留置期間は医師が調節できるものではなく、約80%は自然に抜けてしまうのです(自然脱落と言います)。自然脱落までの期間はまさに個人差で、1ヶ月以内に抜け落ちる人もいれば、1年以上抜けない人もいますが、おおむね年齢が小さい方が早く抜ける傾向にあります。

例えば4歳児と6歳児を比べると、4歳児の方が長い留置期間が得られにくいのです。自然脱落までの期間を平均すると約6ヶ月で、その場合の再発率は約25%です。自然脱落する前にチューブを抜かざるを得ない場合もあります。チューブを留置した人の約20%はチューブの中が詰まってしまったり、急性中耳炎をおこしたりで十分な留置期間が得られる前に抜去することを余儀なくされます。

[チューブ留置による合併症]

前述しましたようにチューブ留置中には急性中耳炎の発症率が高まります。鼓膜に穴が開いているため、鼻咽腔からの膿汁の逆流をおこしやすいのです。(外耳道からの細菌感染はむしろ稀です。)

約10%に急性中耳炎がおこるといわれています。急性中耳炎は若年ほど発症率が高く、2歳前後では20%を超えますが、6歳ごろには10%以下になります。チューブの自然脱落というと鼓室の中に入り込んでしまうことを心配される方もいますが、ほとんどの場合、外耳道側にでてきます。チューブの脱落や抜去後には鼓膜の穴が残ってしまったり、鼓膜の一部が硬くなってしまうこともありますが、その率はせいぜい1〜2%とわずかです。

[治癒率]

留置期間に大きく左右されることは先に述べましたが、チューブ留置を行った人すべての治癒率は約65%です。つまりせっかくチューブ留置術を行っても3人に1人は再発してしまうのです。チューブ留置にまで至る人は元々難治であり、せっかく入院までしても治癒率はかなり低くなってしまいます。これは結局はこの項の冒頭でも述べましたように現在の治療が悪循環を断ち切るという作用にとどまり、耳管機能を直接改善させるに至っていないことの証明ともいえます。

しかし、少なくともチューブが詰まらずに留置されている間は、聴力は正常に保たれるわけですから、幼小児の精神・言語発達への影響はその間、最小限に抑えられるという効果も見逃せません。

[チューブ留置中の生活上の注意点]

運動: ほぼ差し支えありません。

風呂: 特に問題はないと思います。

プール: うーん、どうでしょうか。

だんだん歯切れが悪くなってきましたね。当然です。これも医師によって大きく考えが異なるからなのです。アドバンストのページで歯切れのいい私の意見をぜひご覧ください。

治療法選択の流れ

一般的な治療の流れを示します。

  1. 鼓膜の内陥が軽く、聴力もそれほど悪化のないようなごく初期の場合は、原因に対する治療や耳管通気などだけで治るかどうか様子を見ます。前述の鼻の治療だけを行う場合もあります。滲出液が見られた場合、直ちに鼓膜切開を行ない医師もいます。 内服薬(抗生物質や粘液融解剤など)を短期間処方したり、長期に処方する医師もいます。
  2. 3〜4週間(1)の治療を続けても軽快しない、あるいは鼓膜の状態が悪化するようであれば、鼓膜切開をします。1回の鼓膜切開で治らない場合には1〜3週間ほどの間隔で数回鼓膜切開を繰り返す場合もあります。
  3. 以上の治療でもよくならず、鼓膜の状態、聴力が悪い場合には鼓膜チューブ留置術を行います。1回のチューブ留置で良くならない場合には2回目を行うこともあります。2回目のチューブ留置を行った人の治癒率は60〜70%といわれています。つまり、1回目のチューブで治らない人(35%)のうち、70%位の人が治るわけですから、0.35×0.7=0.245となり、約25%の方も2回目の治療で治るわけです。つまり、チューブ留置を1〜2回受けた人のうち、約90%の人が治癒するといえます。
第7章 聴力検査など 第9章 なりやすい子治りにくい子

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