お母さんのための滲出性中耳炎教室リターンズ

第10章 治るの?どうなるの?

一旦滲出性中耳炎になるとその後どうなるのか。将来何か不都合なことがおこらないか。このことが最も気になる点で大切なことでもあります。今後のことや後遺症のことを心配する前に、まず現在の状況について考えてみましょう。

幼小児で難聴が続く場合には言語発達に悪影響があるばかりでなく、精神発達にも影響を及ぼす可能性があります。幼小児では精神・言語発達の途上にあり、聴覚はそのどちらにも大きく関わっているのです。視覚障害と聴覚障害では、聴覚障害の方が精神発達に悪影響を及ぼしやすいことはよく知られています。しかし、滲出性中耳炎児のほとんどは軽度の難聴にとどまるので、いたずらに心配しすぎることはありませんが、難聴という状態はできるだけ短期間にとどめるにこしたことはありません。

さて、滲出性中耳炎の長期経過と後遺症に分けて述べてみます。

長期経過

長期経過という言葉だけで、そんなに長くかかるのかと、ドキッとされた方もいらっしゃるでしょう。残念ながら、滲出性中耳炎は長期間、治らず続くことがあります。そして、滲出性中耳炎の経過でまず最初に2つ、念頭においていただきたいことがあります。

2、3ヶ月〜10ヶ月程度の周期で、滲出性中耳炎の状態はかなり変動する。

つまり、例えば、今週の診察では滲出性中耳炎であっても、1ヶ月後の診察ではまったく滲出液がたまっておらず、そのまた2ヶ月後には滲出液がたまっているということがありうるということです。このことは、2つのことを意味しています。1つは、いったん滲出液がなくなっても、それで治ったと安心できないということです。それは結局、治癒を確認するためには数ヶ月以上の観察期間を要することを意味します。

もう1つは治療効果の見極めです。この点についてはアドバンストで詳述します。

とにかくここで強調したいことは、滲出性中耳炎はその状態が大きく変動するので、滲出液がなくなっても喜びすぎない、滲出液がまたたまっても落ち込まない、という意識を持っていただきたいということです。

経過が数年という長期に及ぶこともある。

治りにくい場合には、経過は数年以上という長期にわたることがあります。これは何もご家族を落ち込ませるために書いているわけではありません。『長期に及ぶ』ということを前向きに捉えると「あせらない」「じっくり取り組む」「どっしり構える」ということですね。『長期に及ぶ』ということを知ることだけでも、『なぜすぐに治らないのだろう』とか『治療法が間違っているのではないか』などという不安が取り除けるという風に捉えてください。

今一度、以上のことをまとめて、覚えておきましょう。

滲出性中耳炎は変動する、長期におよぶことがある。

次に、お子さまの滲出性中耳炎がどうなるのかという今後の見込み、つまり、どれくらいの割合で完全に治るのか、治療期間はどの程度か、といった話です。しかし、残念ながら、いま治療中の滲出性中耳炎がどうなるかを完全に予測する手だてはありません。鼓膜の状態や聴力が悪いほど治りにくいことはほぼ想像がつくといった程度です。現在の患者さんの将来が予測できない以上、過去の患者さんの治療の結果を参考にして治癒の確率を出すしかありません。正確な数字は著作権の問題もあり引用できませんので、私の診療上の印象も交えて大まかな数字をあげてみます。

1. 自然に治る、あるいは外来通院のみで治る 90%以上
2. 手術など、外科的処置をして治る 5%程度
3. 滲出性中耳炎を繰り返す、慢性中耳炎に移行する 1%程度

ほぼ以上のような割合になると思いますが、注意していただきたいのは(1)です。このデータは欧米の疫学調査を基にしたものです。

つまり、ある地域の対象年齢となる全ての小児を調査したものなので、滲出性中耳炎になっていることさえ気づかないようなごく軽い場合や医療機関を受診せずに治る小児が多く含まれているのです。その点、割り引いて考える必要があり、通院中の小児の9割以上が自然に治るという意味では決してありません。

誤解して注意を怠ると(3)に入ってしまうこともあり得るということをあえて強調いたします。「あえて…」と申し上げたのは、私はお母さんにあまり神経質に心配しすぎないでほしいという思いが常にあり、お母さんの精神衛生上、ひいてはお子さまの精神状態に悪影響が及ぶことを心配しているのですが、あまり安心して通院をやめてしまうと、結局はお子さまの不利益になるという考えからです。

滲出性中耳炎教室というホームページを開設したのも病気をよく理解していただき、よけいな不安や過度の心配を取り除いていただくことを趣意としていますので、その点ご理解下さい。

次は治療期間の過去の結果です。一口に治療期間といっても、その間の通院回数がどの程度かで、お子さまやお母さんの負担が全然違ってきます。例えば仮に治るまで3年かかったとしてもその間の通院が3ヶ月に1回であればそれほど苦痛はないでしょう。

しかし、たとえ2ヶ月間でも毎日の通院となると大変です。通院の頻度は病状や治療の種類によっても大きく異なります。例えば、急性中耳炎後、滲出性中耳炎になって間もない状態であれば、2〜3週間できるだけ通院回数を多くする方がすっきりと治ってしまうかも知れません。一方、鼓膜にチューブを留置していて、他に鼻の症状などがなければ、1〜2ヶ月に1回の通院で充分なこともあります。

以上、各治療の通院回数については第8章をご参照下さい。治療回数を考慮していない治療期間を一応の目安として示します。

完全に治るまでの期間

1ヶ月以内 40%
3ヶ月以内 20%
6ヶ月以内 10%
1年以内 20%
1年以上 10%

自然に治るようなごく軽症のものも含めると上記のような程度になるのではないかという私の診療上の印象です。

後遺症

ここでは滲出性中耳炎になった幼小児の十数年以上先の将来のことについて考えてみましょう。つまり、大人になったときにどうなっているかです。しかし、これも残念ながら正確に予測する手だても統計上のデータもほとんどありません。前述しましたように、1〜2%が慢性中耳炎に移行している可能性があるといった程度です。具体的には慢性中耳炎の中でも癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎といった状態になることが想定できるのですが、いずれも難治です。現在では慢性中耳炎に対する手術もかなり進歩しているのですが、耳管という中耳にとっての1つの生命線ともいうべき重要機能が損なわれている場合には大きな期待がもてないことも多いのです。このような慢性中耳炎では通常、中程度の難聴、場合によっては高度難聴となることもあります。何か悲観的な話になって恐縮なのですが、ここで強調したいのは、このような生涯、難聴というハンディキャップをかかえる可能性は非常に低いということです。99%位は難聴もなく治ってしまうということを覚えておいてください。

第9章 なりやすい子治りにくい子  

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小児滲出性中耳炎アドバンスト

ここからはじまる小児滲出性中耳炎の新しい診療

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